「ここは姨捨山や」––。
就職氷河期の2001年、私は中堅私大の文系学部を卒後し、大手鉄鋼メーカーに入社しました。誰もがその名を知る大企業。意気揚々と入社したのを覚えています。しかし、配属初日に年配社員から言われたこの一言に、愕然としました。実際、その部署の人たちは皆、「どうせ俺たちなんて・・・」というのが口癖で、仕事への意欲を完全に失っていました。

会社の看板と業界の慣習で仕事が回ってくるので、仕事そのものはとてもラク。営業と言ってもすることは何もなし。業界のルールを守ることが大事なので、考えて仕事をするというのはむしろ余計なこと。何も考えず、上の人たちから言われたことに従うのみ。毎日9時に出社して、17時には退社。「今日は何をしに会社に行こうかな〜?」––そんな日々でした。そうした状況に嫌気が差して、2年半程で退職したのですが、その2年半は、「仕事ってなんなんだろう?」「イキイキと働くってどういうことなんだろう?」と悩み続けていました。

その後、地元に戻り、企業の信用調査をする会社に入り、多くの中小企業経営者の謦咳に接する機会を得ました。
いろいろな苦労をしながら会社を立ち上げたお話、企業を存続させていくために苦労しているご様子、いま目の前の資金繰りに悩みながらも、10年先、20年先を見据える眼差し。「経営者は孤独」「経営者は本当に大変」と言いながらも、明るく、誇りと自信にあふれた姿。それらを拝見する中で、「イキイキと働く」とは、経営者のように、仕事を「自分ごと」として捉え、自ら考え、自らの意志で、自ら動くことだ、そう思うに至りました。

そしてまた、この業務を通じて初めて、自分が生まれ育った街にも素晴らしい会社がたくさんあるということを知りました。「学生時代にこのことを知っていたら、きっと自分の就職活動は違っていた」––そう思いました。そして、かつての大手企業で見た、仕事に対する意欲を失った人たちのことを思い出しました。

「あの人たちだって、きっと、最初から意欲がなかったわけではない。大きな組織の中に埋もれ、仕事の目的や意義を見失う中で、イキイキと仕事ができなくなっていただけ。あの人たちが、地域に根ざした企業に入るという選択をしていたら、きっと、イキイキと心豊かな社会人生活を送っていたはず。そういう人が増えれば、会社も地域も、もっと元気になる」––そう確信しました。

多くの地元経営者から学んだことは、今も血肉となって私を支え、導いてくださっています。あの素晴らしい「生きた学びの場」を、たくさんの若者にも提供したい。そして、自分たちが生まれ育った街にも、こんなにもたくさんの素晴らしい会社があったのだということを知って欲しい。それが「信州学生U・Iターンプロジェクト」の思いです。

美しい星空も、きらめく夜景も、それをつくっているのは一つひとつの小さな光。それぞれが思い思いに光り輝いているからこそ、全体として美しい。組織や地域も一緒だと思います。それぞれが「自分ごと」として悩み考え、前に進む姿、そこに正解はない。
私たちは、それぞれの思いを胸に歩み続ける人や会社の背中を、あらん限りの力で押す。
そんな存在でありたいと考えております。

2022年3月
担当者 高橋史樹